いつまでも若々しく元気でいたいという願いは、すべての人に共通の思いですが、実際には歳を重ねるにつれて肌や目に衰えが現れ、筋力や運動機能が低下し、怪我や病気からの回復が遅くなり、高血圧症や糖尿病、骨粗鬆症、老年期痴呆症といった生活習慣病や老年病を患いやすい体質に変ってきます。そして何びとたりとも、いずれは訪れる死を免れることはできません。したがって、老化研究に求められることは、いたずらに寿命を延長することではなく、せめて親から受け継いだ遺伝子に規定された寿命(天寿)を全うする間、健康で自立した生活を営めるようにする手だてを見つけだすことであり、加齢に伴って現れる身体機能の低下のしくみを解明し、その進行を遅らせる手だてを見つけだすことであると考えられます。
これまでの研究で、老化した細胞や組織、器官では、次のような変化が蛋白質に起きることが観察されています
そもそも老化は細胞に起こる現象ですが、身体の機能は、脳や心臓、肝臓、腎臓といった臓器の機能によって維持されており、さらにそれぞれの臓器の機能は臓器を構成する細胞の機能によって維持されていますので、細胞に起こった老化が臓器の機能低下につながり、ひいては全身の機能の低下を引き起こすことになります。
老化の原因については、表1に示すように、これまでにいくつかの仮説が提唱されています(引用文献)。
私たち生物の体は、細胞の核の中にあるDNAに記録された遺伝子情報に基づいて造られています。このため、老化も遺伝子情報の支配下で進行するのであろうという考え方があります。これは、ある意味では正しいのですが、実際に個々の細胞の構造を作り、生命維持活動を行っているのは遺伝子そのものではなく、遺伝子情報に基づいて作られた蛋白質群の働きなのです。したがって、老化は細胞内で発現された蛋白質群(プロテオーム)の機能が経時的に変化を起こすよって引き起こされるトラブルの一つであると考えことができます。またそこには、活性酸素や紫外線など、老化を促進する様々な要因が加わっています(下図)。
1.蛋白質の発現レベルの変化。
2.蛋白質の分解速度の変化。
3.熱に不安定な酵素の出現増加。
4.不活性な酵素の増加(比活性の低下)
5.自家蛍光を発する蛋白質の増加。
6.不溶性の蛋白質の増加。
さらに、このような蛋白質の変化の背景には、
1.リジン、アルギニン、プロリン残基の酸化(カルボニル化)
2.メチオニン残基の酸化(スルホキシド)
3.チロシン残基のニトロ化。
4.ヒスチジン残基イミダゾル環の酸化
5.リジン残基のカルボキシメチル化(糖化)
などの酸化的修飾(非酵素的翻訳後修飾)があります。
そして、このようにタンパク質に酸化的修飾を起させている犯人として、下図に示すように、ミトコンドリアの内外で作られる活性酸素分子種(ROS)や活性窒素分子種(RNS)などの『酸化ストレス分子』の存在が浮かび上がってきています。
いわば細胞の部品である蛋白質が『錆びる(酸化される)』事によって、細胞の活動が低下し、その細胞が集まって作られている組織や器官の機能が衰え、その結果として身体の機能が低下するのが老化であると考えられています。
私たちプロテオーム研究グループでは、老化した細胞に実際に蓄積される『酸化蛋白質』を突き止め、それが本当に細胞の老化の原因になっているか否かを確かめるための研究を行っています。