3年前に亡くなったフランスのカルマンさんは122歳まで生きました(文献1:F. Cavalie, 1995)。少女時代に画家のゴッホと交遊があったそうです。寿命は栄養や衛生状態、医療、運動、ストレス、睡眠など生活環境に大きく影響されますから、カルマンさんは最善の生活環境で暮らしてきたと考えられます。しかし生活環境だけではなく120位まで生きるための遺伝子をしっかり持っていて、それがしっかり働いた、すなわち生活環境も遺伝子も長寿という点からすると優等生だったのではないかと想像されます。 ヒトは約120迄生きる潜在能力を持っているように、いろいろな動物はその種に固有の潜在寿命を持っています。ネズミはヒトと比べて老化速度が速く3年しか生きられません。コウモリは30年、ウマは46年・・・(文献2:R. Arking, 2000)。このような違いはそれぞれの動物がそれぞれの動物に固有の潜在寿命まで生存できるための遺伝子を持っていて、それがそれぞれの動物に特徴的な働き方をするためと考えられます。ヒトはいったいどんな遺伝子を持っているのでしょうか?それらがどのように働くために120まで生きることができるのでしょうか?ヒトのゲノムプロジェクトが完成に近づき遺伝子研究が急速に発展するでしょう。将来このようなことがわかるようになれば、例えばある人が遺伝子診断によってこれらの遺伝子をちゃんと働いていないとかがわかれば若いうちから薬を飲むとか特別ある生活習慣を気を付けるとかの個別の処方でいろいろな老人病を防いだり、老化を遅らせ健康で長寿を目指すというようなことも決して夢ではなくなるかと思います。 しかし3〜4万とも言われている人間の遺伝子の中からこのような、老化を防ぎ健康長寿をもた らす遺伝子を見つけだし、その働き方を知るのは易しいことではありません。ヒトで未解明の問題はまず実験動物で行い、その成果から糸口を見つけるのが常套手段です。よく使われるのがネズミ(マウス、ラット)です。最大寿命は約3年です。遺伝子の役割を知るのに通常、遺伝子操作を行いある遺伝子を変化させた動物の性質をみるという方法が取られます。近い将来ネズミのゲノムプロジェクトが完成し全遺伝子が解明されるので、将来一つ一つの遺伝子の操作をして寿命を見て、寿命が延びるものを見出すことにより、ネズミの寿命を決めるための遺伝子を明らかにすることは可能です。しかしこのような実験では、一つの遺伝子を操作したネズミで寿命を測るためにそれぞれ数十匹を飼って3年以上の寿命を調べる必要があります。ネズミの遺伝子は10万個近くあると考えられますから、それらをすべて調べるとなると大変な時間と労力と施設が必要になります。種々の生物のゲノム研究が発展してきたことにより、生物は巨大な遺伝子プールを持ち、種を越えて大きなスーパーファミリーを形成していると考えられるようになってきました(文献3:B. Levin, 2000)。 生物全体がゲノム上のあちこちにお互いに相同な遺伝子をかかえ、それを必要に応じてデータベースとして利用しているのです。寿命を決める遺伝子群もそのデータベースの一つなら、まず、より単純な動物で寿命を決める遺伝子群を明らかにし、それをヒントにより高等な動物そしてヒトで解明しようと考えるのです。
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