ヒト、ラット、マウスの遺伝子情報と老化/癌化
--- 分子生物学的方法によりブレイクスルーした老化生物学 ---

石川 直、木村成道 (遺伝子情報部門)


 高齢化が急速に進むなか、複合的な身体機能の低下をきたす老化のメカニズムの科学的解明が切実に求められている。これまでの老化生物学研究から得られたデータの多くは個別的データの集積であり、加齢変化の原因か結果かも明確にされない現象の記述に留まってきた。
 近年の分子生物学の爆発的な発展は老化生物学の領域にも広く深く波及した。殊に最近数年間の新発見(ヒト早老症ウェルナー症候群の責任遺伝子DNAヘリカーゼの同定、遺伝子修復遺伝子群変異が老化現象を促進すること、DNAレベルの老化現象の解析など)は老化現象の核心を衝き、老化のパラダイムの転換を迫るものであった。
 私共は先にウェルナー症候群患者由来の培養細胞およびヒト正常二倍体線維芽細胞のプロテオーム分析を行い、細胞老化に伴い多数の蛋白質の発現量の低下あるいは亢進を認めた。更に若齢と老齢の実験動物(マウス・ラット)由来臓器サンプルを比較するプロテオーム分析や、DNAアレイによるmRNAの定量分析と比較照合することにより、細胞老化および個体老化に伴う細胞内の物質の生成・代謝のダイナミズムが明らかになることが期待される。このようにして割り出された加齢に伴い正常値幅から逸脱する、恒常性の保持に必須のハウスキーピング遺伝子を同定し、ゲノム構造の変異を分析する。これらの基盤情報の確立により、複雑で多彩な加齢に伴う退行性変化の全体像がゲノムレベルから蛋白質レベルまで統合的に理解可能となるであろう。ひいては老化に伴う身体機能低下を遅延させたり、機能回復させる方法の開発に向けて確かな道をひらくことが期待される。



  1. 遺伝子レベルから見た老化の概念(最近の知見に基づく、概念の整理・再構築)
  2. ゲノムに籠められた老化・寿命を規定する遺伝子情報
  3. 老化の原因・老化の機構(仮説)
  4. 生物学のセントラルドグマ(遺伝情報の流れ:flow of information )再訪
  5. (1) 生物種によって老化のメカニズムが異なる!?
       (メカニズムは同じ? 表現型が異なる。 なぜか?)
         A 生物種によって寿命を規定する因子が異なる!
       (表現型が異なる。 メカニズムは?  なぜか?)
  6. 加齢に伴うDNA傷害 (老化と癌化はDNA傷害という共通の原因“敵”に由来する?)
  7. 時系列的に増加する癌化はDNA傷害の蓄積が原因である。
  8. 加齢に伴う遺伝子発現の変化と老化
  9. ゲノムレベルの老化研究最近の進展(参考文献)