ヒトの全ての臓器・組織は細胞を構成単位として形作られている。従って細胞の増殖、修復、代謝、細胞間の情報交換等の細胞機能の低下は、結果的に、疾病の発症あるいは老化の大きな危険因子となる。細胞機能に影響を及ぼす主な因子として、体外から食餌として取り入れられるタンパク質・アミノ酸、脂肪酸・コレステロール等の脂質、ビタミン、ミネラルなどの「栄養素」と体内で産生される「ホルモン」や「サイトカイン」が挙げられる。「栄養素」は、この世に生を受けてから死ぬまで食べ続ける、生涯に亘って生体に影響を及ぼし続ける物質といえる。栄養素は、身体活動および体温維持に必要なエネルギーおよび代謝に必要な材料を生体に供給する一方、ホルモン、酵素、神経伝達物質、細胞増殖・修復因子、活性酸素の消去物、免疫機能の調節因子など細胞機能に影響する成分を直接あるいは代謝の過程で生体に供給する。従って、栄養素摂取の適否は、細胞機能に影響し、身体の加齢変化に影響を及ぼす。一方、「ホルモン」は生体内でアミノ酸、ステロイドなどから生合成されて分泌細胞から循環血液中に分泌(内分泌)され、標的組織の細胞機能や代謝を調節して生体の恒常性(ホメオスタシス)を維持している。「サイトカイン」は、リンパ球及びその他の細胞で作られて分泌され、分泌細胞付近の狭い範囲で作用するタンパク質様物質で、免疫機能の他に細胞増殖、分化、抑制作用も併せ持ち、細胞相互の複雑なネットワークを作って細胞機能を調節している。従って、ホルモンやサイトカインの産生・分泌量や標的細胞の感受性が亢進あるいは低下して恒常性が損なわれると、標的組織あるいは標的細胞の機能が異常に高まったり低下したりすることになる。
高齢者では、脳、腎臓、筋肉、胸腺、骨など多くの組織に退行性萎縮が見られ、この様な組織では細胞数は減少して生理機能も低下している。この中でも骨は、加齢の影響をもっとも強く受ける組織の一つであり、また食事やホルモンバランスの影響を強く受ける組織でもある。骨密度は、骨の形成(骨形成)と骨の分解(骨吸収)の量的なバランスにより、増減する。ヒトの骨密度は、25歳位までに最大となる。成人の骨では、通常、骨形成と骨吸収とがバランスを保っているため、骨密度はほぼ一定に保たれている。しかし、最大骨量に達した後は、様々な要因により骨吸収が骨形成を上回るようになり、骨密度は加齢に伴って徐々に減少していく。特に女性では、閉経により加齢に伴う骨密度の低下は加速される。70歳以上の日本人女性の平均骨密度(第3脊椎)は29歳以下の女性に比べておよそ25%も低下しており、骨折閾値(0.80g/cm2)をも下回っているという。つまり骨の老化は骨密度が低下して骨折の危険性が高まることである。
なぜ骨が老化するかについては充分解明されていないが、細胞レベルでの骨代謝調節機構が明らかにされつつある。本文では、骨の細胞、特に骨を作る働き(骨形成)をしている骨芽細胞と骨を壊す働き(骨吸収)をしている破骨細胞に注目し、これら細胞の形成および活性化を調節する栄養素、ホルモン、サイトカインに関係した研究情報を提供する。
キーワード:栄養素と破骨細胞および骨芽細胞の機能
ホルモンと破骨細胞及び骨芽細胞の機能
サイトカインと破骨細胞及び骨芽細胞の機能
破骨細胞形成とホルモン・サイトカイン
IL-1、IL-6、TNF、IL-11等のサイトカインおよびPTH、PGE2、活性型ビタミンD等のビタミンによる刺激によって、骨芽細胞/ストローマ細胞(Osteoblast/stromal cell)の破骨細胞分化因子(ODF)およびマクロファージ-コロニー刺激因子(M-CSF)産生が高まり、破骨細胞前駆細胞(pre-osteoclast)から破骨細胞(Osteoclast)への分化が促進される。また、単球(Monocyte)からのIL-1、IL-11、TNF-αは造血幹細胞から破骨細胞前駆細胞への分化を促進する。このようにして破骨細胞が形成され、骨吸収が促進される。骨吸収が進行すると骨芽細胞のOCIF産生が高まり、破骨細胞形成は抑制される。また骨吸収により骨基質から遊離してくるカルシウム、カルシトニン、TGF-β、骨形成タンパク質(BMP)などは骨芽細胞による骨形成あるいは破骨細胞のアポトーシスを促進して、骨の代謝を骨吸収から骨形成に切り替える働きをしていると考えられている。
これら一連の破骨細胞形成過程はエストロゲンによって抑制されている。エストロゲンは単球から破骨細胞前駆細胞への分化および骨芽細胞のODF産生を抑制する。従って、閉経などによってエストロゲン欠乏状態になると、骨吸収は加速されることになる。
研究情報の項目
1.栄養素と破骨細胞および骨芽細胞の機能に関する研究情報
栄養素の内、アスパラギン酸、セリン、グルタミン酸、グリシン、リジン、タウリン、グルコース、ガラクトース、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK、カルシウムは細胞膜表面あるいは細胞質内にレセプターの存在が確認されており、これらの栄養素はレセプターを介したシグナル伝達によって細胞機能を調節しうる。一方、レセプターを持たない栄養素もホルモン誘導作用を示したり、代謝の過程で生物活性をもつ物質に転換され、細胞機能を調節しうる。この様に、栄養素も細胞機能を調節していることが明らかにされている。骨の細胞機能にとって特に重要な栄養素はカルシウム、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK、そして非栄養成分のイソフラボンである。カルシウムはリン、マグネシウムと共に骨の材料として重要なだけでなく、破骨細胞の機能調節にも重要な役割を果たしていることが、最近明らかにされた。ビタミンK(K2)は骨吸収抑制作用に加えて骨形成を促進することから、骨粗鬆症治療薬として用いられている。またイソフラボンは、エストロゲン受容体を介して骨吸収を抑制するが生殖器に殆ど影響しないため、副作用が少ない骨粗鬆症抑制因子として注目されている。ここでは、栄養素の一般的な生理作用を解説し、さらに骨代謝との関係が報告されている栄養素について「骨の細胞に対する作用」として解説する。
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栄養素名 |
物 質 名 |
主な作用(55) |
骨の細胞に対する作用 |
アミノ酸
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システイン(Cys)
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Cysはグルタチオン、タウリンの前駆体である。システイン投与はグルタチオン合成量を増加する。グルタチオンは水溶性の抗酸化物質として、活性酸素の傷害から組織を保護している。Cys自身も還元作用をもつ。また、結合組織、筋肉そして骨のタンパク質において、2分子のシステインは互いのSH基間に架橋構造を作り結合組織に物理的な強さと堅さを与えている。 |
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メチオニン(Met)
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Metは体内で活性型の5-アデノシルメチオニンになる。5-アデノシルメチオニンは、カルニチン、コリン、メラトニン、エピネフリン、核酸などの合成に中心的な役割を持つ。 |
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分岐鎖アミノ酸(BCAA)
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ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)およびバリン(Val)の分岐鎖アミノ酸は肝臓で殆ど代謝されず筋肉で主に代謝される特徴がある。またこれら分岐鎖アミノ酸は、Phe、Tyr、Trpを脳内に取り込むためのキャリアと同じキャリアで取り込まれるため、分岐鎖アミノ酸投与は、脳内Phe、Tyr、Trpレベルを下げ、結果として脳内セロトニン、ドーパミンレベルを下げる。 |
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フェニルアラニン(Phe)とチロシン(Tyr)
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TyrはPheから変換される。PheとTyrは脳内に入りド−パミン、ノルエピネフリン、エピネフリン、メラニン、メラトニン合成の前駆体となる。Tyrは甲状腺ホルモン合成の必須前駆体である。 |
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トリプトファン(Trp)
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Trpはナイアシンと神経伝達物質のセロトニンの前駆体である。Trp摂取の増加は脳内セロトニンレベルを増加する。またナイアシン欠乏時にはTrpからのナイアシン合成が増加する。 |
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リジン(Lys)
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Lysはカルニチンの前駆体である。免疫機能維持に重要な役割を果たしている。
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リジンと骨の細胞に関する研究は殆ど行われていないが、アルギニンとリジンを培養液に加えて骨芽細胞を培養すると、T型コラーゲン合成が促進されたという報告がある(1)。 |
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アルギニン(Arg)
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Argは、尿素サイクルのメンバーとし
て尿素の生成に必須のアミノ酸である他、成長ホルモン(脳下垂体)、インスリン(膵臓)およびノルエピネフリン(副腎)分泌刺激、白血球形成刺激、腫瘍成長抑制の他、細胞の増殖および成長に関係しているSpermine、Spermidineの前駆体としての働きもある。アルギニンは代謝の過程で一酸化窒素(NO)を生成する。NOは、血圧の調節のほか、炎症反応や免疫機能に関与している。また、神経細胞でのシグナル伝達にもかかわっているらしい。NOはグアニル酸シクラーゼ活性を高めてcGMP産生を高め、cGMP依存性リン酸化酵素によるタンパク質のリン酸化によって細胞機能を調節している。一方、NOが過剰に作られて過酸化窒素(NOO−)が合成されると、生体に酸化傷害をもたらす。 |
アルギニンと骨の代謝に関する報告は、殆どの場合一酸化窒素(NO)との関係から研究されており、骨の細胞に対するNOの多様な調節作用が報告されている(2)。その一方で、アルギニンとリジンを培養液に加えて骨芽細胞を培養すると、T型コラーゲン合成が促進されたという直接的な効果に関する報告もある(3)。
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グルタミン(Gln)
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GlnはCysと共に抗酸物質のグルタチオンの合成に使われる。グルタミンは脳内に取り込まれて神経伝達阻害物質のγアミノ酪酸に転換される。 |
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グルタミン酸
(Glu)
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グルタミン酸はアミノ基転移反応に関わっているほか、脳内の興奮性伝達に主要な役割を果たしている。グルタミン酸レセプターは神経組織以外にも発現している(4)。 |
骨にもグルタミン酸レセプターが発現しているが(5)、グルタミン酸の骨代謝に対する影響については否定定期な報告もある(6)。
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タウリン(Tau)
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Tauはタンパク質合成には使われないが、高コレステロール血症正常化、血圧降下、解毒作用、免疫機能維持、生体膜安定化、神経興奮性調節、抗酸化性などを有している。
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タウリンと骨の細胞に関する研究は殆ど行われていないが、タウリンは、骨芽細胞のアルカリフォスファターゼ活性およびコラーゲン合成を刺激することおよびこの効果がextracellular signal regulated protein kinase-2(ERK-2)を介している可能性が報告されている(7)。 |
脂質
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脂肪酸
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脂肪酸は、分解されてエネルギー源として利用される他に、細胞膜の構築と維持に使われている。特に多価不飽和脂肪酸は膜の流動性を維持し、細胞の反応性と機能を維持している。リノール酸とリノレン酸は、生体内で必要量を合成できず、摂取する必要があるため、必須脂肪酸と呼ばれている。リノール酸とリノレン酸は、体内でアラキドン酸あるいはエイコサペンタエン酸に変換されて成長、血圧、炎症、血小板凝集の調節など様々な機能を持つホルモン様物質のエイコサノイドの合成に使われる。主なエイコサノイドとして、プロスタグランディン、トロンボキサン、ロイコトリエンが知られている。 |
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コレステロール
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コレステロールは、主に肝臓で合成される。生体膜中では、膜の物理的性質、安定性など、膜機能の維持に関与している。この他、胆汁酸、ビタミンD、性ホルモン、副腎皮質ホルモンなど様々な生理活性物質の前駆体としての役割を持っている。 |
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ビタミン
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ビタミンB1(B1)
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B1はエネルギー代謝に中心的役割を演じているほか、神経系にも重要な役割を果たしている。神経細胞膜上に存在するチアミンは脳や神経におけるいくつかのトランスミッターの代謝に重要な役割を果たしている。 |
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ナイアシン
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ナイアシンはエネルギー代謝に重要な役割を果たしている他、ヒストン合成に関与してDNA複製と修復にも関与している。また抗酸化作用、血糖値調節因子(GTF)の構成成分として作用している。 |
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ビタミンB12と葉酸
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葉酸はビタミンB12によって、生体内で、活性型のtetrahydrofolateに変換される。葉酸は細胞の成長に必要で、消化管のライニングセルや赤血球では葉酸の要求量が高い。また葉酸は胎児の発育特に中枢神経系の形成に重要。一方、ビタミンB12は葉酸を活性化するのに必要。両ビタミンは核酸とDNA合成に必須。 |
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ビタミンC
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ビタミンCは主要な水溶性抗酸化物質で、酸化障害から生体を保護している。また、鉄や銅の還元の他、SODを還元し、多くの酸化還元反応に関与している。このほか、コラーゲンの合成、神経伝達物質のノルエピネフリンとセロトニン合成に必須である。ビタミンCはまた免疫機能を高める。 |
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ユビキノン
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ユビキノンはPheから合成される。強い抗酸化性を有し、酸化障害から生体を保護している。 |
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ビタミンA
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ビタミンA効力は、レチノールの他、レチナール、レチノイン酸、カロチノイド類も示す。活性型はレチノールとレチノイン酸。レチノイン酸は生体全体の成長、皮膚や粘膜細胞の成長と発達、生殖機能の維持、白血球の抗体産生亢進、T-cell形成・活性化の促進、抗ガン細胞増殖抑制作用などを示す。一方、レチノールは視覚色素合成の維持に必須であるため、レチノール欠乏によって視覚障害が起こる。 |
レチノイン酸のレセプター(RAR)はα型、β型およびγ型が同定されている(8)。レチノイン酸と骨芽細胞あるいは破骨細胞に関する研究は殆ど行われていないが、レチノイン酸により骨芽細胞数が減少し、またヒト正常骨芽細胞のIL-6およびアルカリフォスファターゼ産生を抑制したという報告(9)と破骨細胞による骨吸収を促進したという報告がある(10)。 |
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カロチノイド
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α、βおよびγ型があるが、βカロチン(Carotene)がビタミンA効力が最も高い。カロチノイドはビタミンA作用の他に、T-cell活性化およびNatural killer(NK)細胞の活性を高め、また腫瘍壊死因子(TNF-α)の産生も高める。 |
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ビタミンD
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ビタミンDにはcholecalciferolとergocalciferolがあり、共に腎臓で活性型の1,25-dihydoroxy-vitaminD3(1,25D3)に変換される。ビタミンDは、骨の成長と化骨、強度維持に必須であり、また細胞外液カルシウム濃度を一定に保つ働きをしている。すなわちビタミンDは(11)、十二指腸でのCa吸収を高めまた尿細管でのCa再吸収を高めて体内Caの喪失を防いで、骨吸収を抑制する。その一方で、Ca摂取不足など血液中Ca濃度低下時には、ビタミンDは副甲状腺ホルモンと共に骨吸収を高めて血液中にCaを放出し、Caとリンの濃度を一定に保つ。このほかにビタミンDは、細胞の成長と発達、特に白血球の成長と発達に関与し、また感染時には白血球の活性を高める。 |
ビタミンDのレセプターは骨芽細胞の他、破骨細胞にも発現しており、ビタミンDは破骨細胞に直接作用して骨吸収を調節している可能性がある(12)。また、ビタミンDレセプター遺伝子には多系性が見られ、骨密度、血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度およびオステオカルシン濃度に違いのあることが報告されている(13)。ビタミンDレセプターと加齢に関する研究報告もある。それによると、骨芽細胞のビタミンDに対する反応性は若齢者に比べて高齢者で低下している(14)。
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ビタミンE
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α、β、γおよびδ型があるが、α-トコフェロールが最も活性が高い。ビタミンEは脂溶性の抗酸化物質として重要で、組織中の活性酸素や遊離基を消去して、酸化障害を防いでいる。このほか、抗凝血作用、白血球の抗体産生を亢進して貪食能を高める作用がある。 |
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ビタミンK
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ビタミンKにはK1(Phylloquinone)とK2(Menaquinone; MK)の2つの種類があり、何れも、血液凝固因子の生合成及びその活性化に必要な、グルタミン酸残基のγ-カルボキシル化(Gla化)を触媒する。ビタミンK2には同族体があるが、MK-4がGla化作用が最も強い。ビタミンK2摂取によって骨折頻度が低下すること(15)およびビタミンK1によって骨形成マーカーが上昇する(16)ことが報告されている。 |
MK-4はオステオカルシンをGla化して、ハイドロキシアパタイトとの結合部位を形成する。MK-4はまた、破骨細胞の形成(17)および骨吸収を抑制(18)する一方、骨芽細胞による石灰化を促進して(19)、骨の量、質および構造を改善することが細胞レベルで確認されている。
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無機質
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カルシウム(Ca)
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Caは細胞の分裂・増殖・分化、血液の凝固、筋肉の収縮、神経感覚細胞の興奮、貪食、抗原認識、抗体分泌など免疫反応、各種ホルモン分泌など広範囲な生体反応に関与している。そのため、血中Ca濃度は9.0〜10.0 mg/100 mlの範囲に厳密に保たれている。また、Caはリンと共にハドロキシアパタイト結晶を形作って骨や歯牙のマトリクス構造に沈着して強度を与えている。Ca摂取量の不足、小腸(十二指腸)での吸収能の低下、尿中排泄量の増加などによりCaバランスが負に傾いて血液中Ca濃度が低下すると、活性型ビタミンD3合成および副甲状腺ホルモン分泌量が増加し、骨の分解(骨吸収)を促進して血液中Ca濃度の低下を防ぐと共に正常化する。 |
骨吸収部位ではCa濃度が8〜40 mMに上昇する(20)。細胞培養実験系で、培養液中Ca濃度の上昇は破骨細胞のアポトーシスを誘導すること(21)が報告されている。これは破骨細胞上に発現しているCa感知レセプター(Calcium-sensing receptor; CaSR)による信号伝達を介していると考えられている(22)。骨芽細胞にCaSRが発現しているか否かについては議論されているが、Yamaguchiら(23)は、骨芽細胞上にCaSRの存在を報告している。
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ナトリウム(Na)
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Naは、主に細胞外液に存在し、細胞外液の浸透圧維持に働いている。 |
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鉄(Fe)
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体内総鉄量の2/3がヘモグロビンとして赤血球中あるいはミオグロビンとして筋肉中に存在し、酸素の運搬に重要な役割を果たしている。また鉄は、エネルギー代謝における電子伝達体(チトクロムC)の必須部位である。 |
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マグネシウム(Mg) |
MgはCa、リンと共に骨と歯牙の主要な無機成分である。 |
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カリウム(K)
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Kは約98%が細胞内液に存在し、神経興奮性の維持、筋肉の収縮、細胞内の浸透圧維持に働いている。 |
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銅(Cu)
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銅は、造血のために貯蔵鉄を骨髄に移動するなど正常な鉄の移動のために必須である。コラーゲンとエラスチンの合成は銅含有酵素であるLysyl oxidaseを必要とするため、血管壁の弾力性と緻密さは銅に依存している。活性酸素消去酵素のZn/Cu-Superoxide dismutase(Zn/Cu-SOD)は銅を含んでいる。銅含有酵素には、エピネフリンとノルエピネフリン合成を促進するものおよびセロトニン、ヒスタミンおよびドーパミンの分解を触媒する酵素がある。 |
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ヨウ素(I)
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甲状腺ホルモンの構成成分として必須のミネラル。 |
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セレン(Se)
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セレンはグルタチオンペルオキシダーゼの必須構成成分。 |
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亜鉛(Zn)
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亜鉛はDNA・RNAポリメラーゼのほか、数多くの亜鉛依存性酵素、あるいはzinc-fingerタンパク質などの構成成分として、細胞の成長と分化及び細胞間シグナルに重要な役割を果たしている。またCu/ZnSODの構造の必須成分として細胞構造脂質の酸化障害を抑制している。 |
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クロム(Cr)
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クロムはグルコーストレランス因子(GTF)の活性構成因子として必須であり、食後のグルコース耐性を高めて食間の血中グルコースレベルの定常性を高めている。 |
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モリブデン(Mo)
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モリブデンは抗酸化物質のキサンチンオキシダーゼの補助因子である。 |
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その他の栄養素
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イソフラボン
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イソフラボンはエストロゲン類似構造を持った一群の有機化合物の総称で、ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン等がよく知られている。生殖器に殆ど影響しない特徴がある。日本人は主に大豆及び大豆製品からこれらイソフラボンを摂取している。イソフラボンの内、エストロゲン作用がもっとも強いとされるゲニステインに関する研究が精力的に行われており、ゲニステインはチロシンキナーゼの特異的阻害因子であること、α型エストロゲン受容体よりもβ型エストロゲン受容体に結合親和性が強いこと、抗酸化作用を持つこと、乳ガン細胞の増殖を抑制することなどが知られている。イソフラボンの種類によって作用が異なるか否かについては結論が出ていない。 |
食事イソフラボンは生殖器に殆ど影響しないことおよび骨量低下を抑制することが、ヒト及び実験動物を用いた研究で報告されている。細胞培養系では、ゲニステインは破骨細胞形成を抑制することが報告されている。また、トポイソメラーゼ(topoisomerase)Uを阻害して破骨細胞のアポトーシスに関与していることが最近明らかにされている。
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文献
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2.ホルモンと細胞機能に関する研究情報
ホルモンは、内分泌腺(下垂体、甲状腺、上皮小体(副甲状腺)、膵臓、副腎皮質及び髄質、雌雄性腺(精巣と卵巣)等)や視床下部など神経系の組織、脂肪組織、心臓・血管から分泌され、親水性のホルモンはそのままの形で、疎水性(脂溶性)のホルモンは分泌後輸送タンパク質と結合して血液中に分泌される。疎水性のホルモンは標的細胞の細胞膜を通過した後、核あるいは細胞質内に存在するレセプター(receptor)と呼ばれるタンパク質に結合してホルモン−レセプター複合体を形成し、これがDNA上のホルモン感受性エレメントと呼ばれる領域に結合して、特定の遺伝子を活性化あるいは不活性化して作用を発揮する。一方、親水性のホルモンは標的細胞の細胞膜上に存在するレセプターに結合し、cAMP、カルシウムイオンなどの2次メッセンジャーと呼ばれる伝達物質を介して、作用を発揮する。cAMPを2次メッセンジャーとしているホルモンが多い。cAMPはアデニル酸シクラーゼという酵素によってATPから作られる。cAMPはいくつかのプロテインキナーゼと結合してこの酵素を活性化し、特定のタンパク質をリン酸化する事によって遺伝子の発現に影響を及ぼしていると考えられている。最近、結合ホルモンの不明ないわゆるオーファン(orphan)レセプターが発見されている。これらオーファンレセプターは、未確認のホルモンの存在を示している。
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ホルモン名 |
主な産生細胞 |
主な作用 |
骨の細胞との関係 |
成長ホルモン(GH)
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脳下垂体前葉ソマトトロープ細胞
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出生後の成長に必須。肝細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞等において、インスリン様成長因子(Inslin-like growth factor; IGF)の遺伝子発現を調節している。IGFおよびその他の成長因子の作用を介して、肝臓、腎臓、筋肉など殆どの細胞の分裂・増殖・肥大を促進し、タンパク質同化作用を示す。また、糖新生促進およびグルコース利用低下作用、脂肪組織からのグリセリンおよび遊離脂肪酸生成の促進、Ca、Mgおよびリンの体内貯留を高める等の作用がある。プロラクチン様作用も示す。 |
GHは、成長期では長骨の成長、成人では骨の付着部あるいは骨端部の成長を促進する。GHは骨芽細胞のレセプターに結合し、IGF-Tの作用を介して骨芽細胞活性化および骨形成を促進する。その一方でGHはIGF-TおよびIL-6の作用を介して破骨細胞形成および骨吸収を促進する(24,25)。このように、GHは骨形成および骨吸収いずれも促進するが、骨形成が骨吸収を上まわる結果、GHは骨量に対して増加的に作用すると考えられている。
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プロラクチン(PRL)
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脳下垂体前葉ラクトトロープ細胞 |
乳腺の発達、泌乳の開始および維持。
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甲状腺刺激ホルモン(TSH)
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脳下垂体前葉
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細胞内メッセンジャーはcAMP。ヨ−素の甲状腺細胞への蓄積、チロシンのヨ−ド化、サイログロブリンの分解を促進し、甲状腺ホルモン(T3,T4)合成を促進する。 |
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黄体ホルモン(LH)
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脳下垂体前葉
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細胞内メッセンジャーはcAMP。黄体細胞でのプロゲステロン産生およびleydig細胞でのテストステロン産生を促進する。 |
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副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
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副腎皮質ホルモン分泌の亢進、血中好酸球およびリンパ球の減少、メラニン細胞のメラニン合成の刺激。 |
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甲状腺ホルモン
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甲状腺
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甲状腺ホルモンは、TSHにより甲状腺からTetraiodothronine(T4)あるいはTriiodothronine(T3)として分泌され、T4は細胞質内で活性型のT3に転換される。甲状腺ホルモンは遺伝子発現、組織の分化・発育・成長を調節する他、エネルギー代謝を規定している。この他、成長期の中枢神経細胞の分化・成熟を促す。
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甲状腺ホルモンレセプターは骨芽細胞、軟骨細胞、骨細胞の他、破骨細胞にも発現している(26,27)。T3は、骨芽細胞の甲状腺ホルモンレセプターに結合し、T3単独であるいはIL-1と協調的に骨芽細胞のIL-6産生を促進し(28)、また破骨細胞を活性化するが(29)、甲状腺ホルモンのレセプターが破骨細胞にも存在することから(30)、骨芽細胞を介した作用だけでなく、T3が直接破骨細胞に作用している可能性も否定できない。一方、甲状腺ホルモンは骨芽細胞の形成も促進することが報告されている。Pepeneらは(31)、T3は直接骨芽細胞に作用して骨形成を促進するほか、骨芽細胞でのIGF-1レセプターの発現およびIGF-1との結合親和性を高めて骨芽細胞増殖を促進することを報告している。 |
卵胞刺激ホルモン(FSH)
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女性では、卵胞の発育および卵胞からのインヒビン分泌を促進する。また、LHと共に卵胞の成熟およびエストロゲンの産生と分泌を促進する。男性では、精巣の精細管の発育を促進し、アンドロゲンと共に精子形成を促進する。 |
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黄体形成ホルモン(LA)
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女性では、FSHと共に卵胞の成熟、排卵の誘起、黄体の形成促進およびプロゲステロンの産生分泌を促進する。男性では、Leydig細胞にFSHと共に作用して、テストステロン分泌を促進する。 |
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副甲状腺ホルモン(PTH)
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副甲状腺上皮小体主細胞
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PTHは血液中Ca濃度の恒常性を保つ働きをしている。血液中Ca濃度が低下すると、PTHの産生及び分泌は促進され、骨芽細胞の形成を抑制し、破骨細胞の形成を促進して骨吸収を高める。その一方でカルシトリオール(1,25(OH)2D3)合成の促進を介して腸管でのCa吸収および腎尿細管でのCa再吸収を高める。このようにしてPTHは血液中Ca濃度を一定に保っている。 |
PTHのレセプターは骨芽細胞に存在し、破骨細胞には確認されていない。PTHレセプターにはPTHおよびPTH related protein(PTHrP)が結合する。PTHは骨芽細胞の調節を介して破骨細胞による骨吸収を促進する。しかし、最近、低濃度のPTHはむしろ骨密度を高め(32,33)、またPTHrPは破骨細胞の分化を抑制して骨吸収を抑制することが報告されている(34)。 |
カルシトニン(CT)
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甲状腺傍濾胞C細胞
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CTはカルシトニンレセプター(CR)に結合して破骨細胞による骨吸収を抑制し、また、尿細管でのカルシウム再吸収を抑制して血液中カルシウム濃度を低下する。
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破骨細胞の細胞膜上にはCR1aとCR1bの2つのレセプターが発現しているがCR1aが優勢に発現している。CTに対する結合親和性もCR1aの方が高い。CTは破骨細胞形成を抑制する(35)。 |
インスリン
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膵臓ランゲルハンス島β細胞
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組織へのグルコースの取り込み、肝臓や筋肉でのグリコーゲン合成および脂肪組織での中性脂肪合成を促進し、また糖新生を抑制して、血糖値を下げる。また筋肉や肝細胞でのタンパク質合成を促進し、分解を抑制する。 |
インスリンは骨芽細胞のインスリンレセプターに結合し(36)、骨形成を促進する。インスリンの骨代謝調節にInsulin receptor substrate-1(IRS-1)という細胞内シグナル因子が必須であることが報告されている(37)。 |
グルカゴン
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膵臓ランゲルハンス島α細胞
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グリコーゲン分解および糖新生を促進して血糖値を上げる。また、脂肪およびタンパク質の分解も促進する。成長ホルモン、インスリン、膵ソマトスタチンの分泌も促進する。 |
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ソマトスタチン
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膵臓ランゲルハンス島D細胞や消化管粘膜
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インスリンとグルカゴンの分泌を抑制する。
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ソマトスタチンレセプターは、ラット胎児長骨の骨端部に認められた(38)という報告があるが、骨の細胞との関係は殆ど研究されていない。 |
カテコールアミン
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副腎髄質
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アドレナリンとノルアドレナリンがあり、アドレナリン作動性レセプター(β1、β2およびβ3型レセプターの3種類)に結合して(39)シグナル伝達している。アドレナリンの主な作用は心収縮、心拍数および心拍出量の増加、平滑筋の弛緩、肝細胞や骨格筋でのグリコーゲン分解と糖新生の促進、血糖値上昇、インスリン分泌抑制、脂肪組織での脂肪分解促進など。ノルアドレナリンの主な作用は血管収縮、収縮期および拡張期血圧の上昇、子宮平滑筋の収縮、脂肪組織での脂肪分解促進など。 |
骨芽細胞細胞膜上にカテコールアミン受容体β2型レセプター(β2-AR)が存在し、破骨細胞による骨吸収を促進することが報告されている(40)。最近、アドレナリンによって骨芽細胞でのIL-6、IL-11、PGE2およびODF産生が促進されることが報告されており(41)、アドレナリンは破骨細胞形成を刺激するものと考えられる。
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グルココルチコイド
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腎皮質索状体細胞
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糖新生の促進(血糖上昇作用)、抗ストレス作用、抗炎症作用、正常な血圧および拍出量の維持。
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グルココルチコイドは、活性化された破骨細胞カルシトニンレセプターの発現およびカルシトニンとカルシトニンレセプターの結合親和性を高めることが報告されている(42)。 |
ミネラルコルチコイド
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副腎皮質球状体細胞
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尿細管でのナトリウムの再吸収促進およびカリウムおよび水素イオンの排泄促進。水の再吸収を調節して循環血漿量(細胞外液量)を維持する。 |
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アンドロゲン
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精巣のLeydig細胞
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主なアンドロゲンは、テストステロンとジヒドロキシテストステロン(DHT)である。アンドロゲンレセプターに対する親和性はDHTが高い。男性の二次性徴の発現、卵胞刺激ホルモンとともに精巣の精子形成維持に必要。筋肉、腎臓、骨の成長、骨髄の赤血球産生などを亢進する。 |
アンドロゲンは骨芽細胞核受容体に結合して、骨芽細胞による骨形成を促進し、骨量に対して増加的に作用することが知られている(43)。さらにアンドロゲンは、破骨細胞に直接作用して、破骨細胞形成および骨吸収を抑制することが報告されている(44,45)。
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エストロゲン
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卵巣及び卵巣外
組織
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エストラジオール、エステロン、エストリオールがある。エストロゲンレセプターにはα型(ER-α)とβ型(ER-β)があり、組織によって発現の強さが異なる(46)。エストラジオールが結合親和性が最も高い。エストロゲンの主な作用は、卵胞および子宮の成長促進、子宮頚管粘液の分泌刺激、子宮血流量の増大、乳腺の乳管の成長促進。エストロゲンはまた、骨や軟骨の同化を刺激し、骨の成長を促進する。
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エストロゲンは主に破骨細胞による骨吸収を抑制して骨形成と骨吸収のバランスを維持している。閉経等によりエストロゲン欠乏状態になると骨代謝回転は高まり、骨吸収が骨形成を上回る結果、骨密度は急激に減少する。骨にはER-αおよびER-βいずれも発現している。しかし、皮質骨では骨芽細胞と骨細胞および骨吸収面の破骨細胞にER-αが強く発現し、一方海綿骨では骨芽細胞と骨細胞にER-βが強く発現し、ER-αの発現は弱いことが報告されている(47)。エストロゲンは両レセプターに強い親和性を持っている。エストロゲンは骨芽細胞様ストローマ細胞における破骨細胞形成促進因子(IL-1、IL-6、TNF-α、GM-CSF、M-CSF、PGE2等)の産生を抑制することおよび骨形成促進因子(TGF-β、IGF-T等)および破骨細胞のアポトーシス因子(TGF-β)の産生を刺激することが知られている(48)。 |
プロゲステロン
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黄体細胞
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エストロゲンによる膣上皮増殖作用の抑制。子宮内膜を増殖型から分泌型に変える、乳腺の腺胞の発達を刺激する。 |
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オキシトシン
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視床下部室傍核と視索上核 |
子宮平滑筋収縮作用および射乳作用。 |
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バゾプレシン
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視床下部室傍核と視索上核 |
遠位尿細管での水再吸収を高め、尿量を減少する(抗利尿作用)。 |
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プロスタグランディンE2(PGE2)
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性嚢腺、胃粘膜細胞、繊維芽細胞、マクロファージ、骨芽細胞など
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プロスタグランディンはアラキドン酸から合成される。PGE2は免疫抑制、血管拡張、子宮筋収縮、骨吸収の促進など、局所ホルモンとして作用している。
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IL-6、IL-1、TNF-αあるいはPGE2等の骨吸収促進因子によって、骨芽細胞でのPGE2産生は促進される。PGE受容体としてEP-1、EP-2、EP-3およびEP-4が知られているが、PGE2のODFを介した骨吸収は主にEP-4とEP-2によって促進されることが報告されている(49)。その一方で、PGE2は骨形成を促進するという報告もある(50)。 |
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文献
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3.サイトカインと細胞機能に関する研究情報
サイトカインは細胞が産生するタンパク質様物質で、ホルモンと同様にサイトカインに対応したレセプターを持つ細胞に作用して、細胞の増殖、分化、抑制などを調節している。異なるサイトカインが同じレセプターに結合したり、一つのサイトカインが複数のレセプターに結合するため、1つのサイトカインが様々な細胞に対して多様な機能を持ち、また異なるサイトカインが類似の機能を示すことも多い。また、リンパ球自身が産生し、リンパ球の機能を調節する液性因子(humoral factor)はインターロイキン(Interleukin, IL)と総称され、遺伝子の同定によりIL-1〜IL-18までが確認されている。サイトカインの中で、白血球遊走作用があるものでお互いに類似したアミノ酸配列を持つものは、ケモカインと呼ばれている。ケモカインは一次構造上4つのシステイン残基(C)が保存された構造を持ち、このシステイン残基の並び方によってCXC、CC、CおよびCX3Cサブファミリーに分類されている。本文では、主なサイトカインの主要な機能について概説し、さらに骨芽細胞あるいは破骨細胞に対するサイトカインの調節作用に関する研究情報を提供する。
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サイトカイン名 |
主な産生細胞 |
レセプターおよび主な作用(54) |
骨の細胞との関係 |
IL-1
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単球、リンパ球、マクロファージ、内皮細胞など多くの細胞。
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IL-1レセプターにはT型(IL-1RT)とU型(IL-1RU)がある。IL-1RTは繊維芽細胞、ケラチノサイト、T細胞、内皮細胞、軟骨細胞、骨膜細胞、肝細胞に、IL-1RUは単球、B細胞、好中球、骨髄細胞、骨芽細胞等で産生される。IL-1は、炎症反応促進、免疫反応促進、造血機能調節、細胞増殖調節、骨吸収作用促進など多様な生物活性を示す。 |
IL-1は、骨芽細胞様ストローマ細胞のレセプターに結合して、IL-6、破骨細胞分化誘導因子(Osteoclast differentiation factor; ODF)およびM-CSF産生を促進し、破骨細胞の分化、形成および活性化を促進する。従ってIL-1は骨吸収を促進する。
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IL-2
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T細胞
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IL-2レセプターはIL-2レセプターα鎖、β鎖およびγ鎖のサブユニットから構成されている。IL-2レセプターγ鎖はIL-4、IL-7、IL-9およびIL-15のレセプターで共有されている。IL-2の主な作用は、T細胞の増殖誘導および活性化、B細胞の増殖および抗体産生能の増強、ナチュラルキラー細胞(Natural killer cell, NK細胞)の増殖及び活性化、単球とマクロファージの活性化など。 |
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IL-3
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T細胞 、肥満細胞
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IL-3レセプターは、IL-3特異的サブユニットのα鎖とIL-5およびGM-CSFとの共通レセプターのβC鎖とから構成されている。主な作用は、肥満細胞や多能性造血幹細胞等の多くの造血細胞の増殖、分化促進および誘導。 |
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IL-4
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T細胞、肥満細胞
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IL-4レセプターは、IL-13レセプターサブユニットと共通のα鎖とIL-2、IL-7、IL-9およびIL-15と共通のγ鎖(γC鎖)の2つのサブユニットでIL-4レセプター複合体を構成している。主な作用は、B細胞の増殖、IgG1およびIgE産生誘導、クラスUMHC(主要組織適合遺伝子複合体)抗原発現増加、T細胞の増殖誘導、胸腺細胞の増殖誘導、肥満細胞の増殖、単球およびマクロファージのCD23発現誘導、ヘルパーT2細胞の誘導など。 |
IL-1、PGE2、PTH、活性型ビタミンD3などによる破骨細胞形成を抑制して骨吸収を抑制する。
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IL-5
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T細胞、肥満細胞
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IL-5レセプターはIL-5レセプターサブユニット(α鎖)と共通レセプターのβ鎖(βC鎖)の2つのサブユニットから構成されている。βC鎖はIL-5の他、IL-3およびGM-CSFのレセプターとして共有されている。主な作用は、好酸球の分化および増殖の誘導、マウスにおけるB細胞の分化および増殖の誘導、IgA、IgG産生の増加など。 |
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IL-6
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T細胞、B細胞、単球、線維芽細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞など多数の細胞。
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IL-6レセプターはIL-6レセプターサブユニット(gp80)と共通レセプターのgp130の2つのサブユニットから構成されている。gp130はIL-6の他、IL-11、Leukemia inhibitory factor; LIF)、Cardiotrophin-1; CT-1)、オンコスタチンM(Oncostatin-M)のレセプターとして共有されている。gp80は可溶性レセプター(sIL-6)としても存在している。IL-6の主な作用は、B細胞およびプラズマサイトの増殖誘導、IgG、IgMおよびIgA産生の増強、肝細胞による急性期タンパク質の産生誘導、ヘルパーT2細胞の分化誘導など。 |
PTH、ビタミンD、PGE2、IL-1、IL-11、TNFなどによる刺激によって骨芽細胞様ストローマ細胞からの破骨細胞分化因子(ODF)、M-CSF、IL-6の分泌が促進される。IL-6は破骨細胞前駆細胞の分化を促進し、骨吸収を促進する。
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IL-7
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骨髄および胸腺間質細胞
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IL-7レセプターはIL-7レセプターーサブユニット(α鎖)と共通レセプターγC鎖の2つのサブユニットから構成されている。γC鎖は、IL-2、IL-4、IL-9およびIL-15レセプターと共有している。主な作用は、プレB細胞の増殖促進。胸腺細胞およびT細胞の増殖促進および分化の調節。および未熟胸腺細胞の増殖の誘導 |
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IL-8(CXCケモカイン)
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単球、内皮細胞、マクロファージ、線維芽細胞 |
好中球、リンパ球、好塩基球の遊走性および活性化の誘導。
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IL-9
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T細胞
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T細胞、赤芽球系前駆細胞の増殖誘導、IL-3あるいはIL-4誘導性肥満細胞増殖の増強。 |
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IL-10
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T細胞、活性化B細胞、単球
|
ヘルパーT1細胞のサイトカイン産生抑制、クラスUMHC(主要組織適合遺伝子複合体)抑制、
マクロファージ活性化の阻害、抗原提示抑制、B細胞の増殖および抗体産生の刺激、肥満細胞の増殖刺激。 |
破骨細胞形成を抑制する。
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IL-11
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骨髄繊維芽細胞、中枢神経、精細胞、睾丸
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IL-11レセプターは、IL-11レセプターサブユニットと共通サブユニットのgp130から構成されている。主な作用は、IL-3、IL-4、IL-7、IL-12、IL-13、Flt3-リガンド、Stem cell factor(SCF)、GM-CSFと協調して造血幹細胞の増殖を誘導する。また、IL-3、トロンボポエチン、SCFと相乗的に巨核球の増殖を促進する。マクロファージ前駆細胞を刺激する。 |
骨芽細胞はIL-11を分泌し、破骨細胞形成を促進する。骨芽細胞にも作用する。IL-11のレセプターは骨芽細胞、破骨細胞共に存在する。
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IL-12
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単球、マクロファージ、B細胞
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T細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性化およびIFN-γ分泌を刺激する。ヘルパーT細胞からヘルパーT1細胞への分化および増殖を誘導し、IFN-γ産生を促進する。SCF、IL-3と協調して造血幹細胞の分化および増殖を刺激する。 |
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IL-13
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B細胞、T細胞、NK細胞、肥満細胞
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IL-13レセプターは、IL-4レセプターサブユニットのα鎖をIL-4と共有している。主な作用は、単球、マクロファージの炎症性サイトカイン産生を抑制する、B細胞の増殖およびインテグリンおよびクラスUMHC抗原産生を促進する、NK細胞のIFN-γ産生を促進するなど。 |
破骨細胞形成を抑制する。
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IL-14
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T細胞、NK細胞、肥満細胞 |
B細胞増殖を誘導する。
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IL-15
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単球、繊維芽細胞、上皮細胞、筋細胞
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IL-15レセプターは、IL-15レセプターサブユニット(α鎖)、IL-2レセプターサブユニットと共通のβ鎖およびγ鎖の3つのサブユニットで構成されている。主な作用は、B細胞、T細胞およびNK細胞の増殖および活性化、B細胞のIgM、IgG1、IgA分泌刺激。 |
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IL-16
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T細胞、好酸球
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IL-16レセプターは、CD4陽性ヘルパー2型T細胞の遊走性および活性化作用を促進し、単球、好酸球の遊走性を促進する。また、ヘルパー1型T細胞の遊走性および活性を抑制する。感染細胞内で、HIV転写を抑制する。 |
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IL-17
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メモリーT細胞
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IL-17は、他のレセプターファミリーと異なるIL-17固有のレセプターと結合する。主な作用は、上皮細胞、内皮細胞および線維芽細胞からのIL-6、IL-8、PGE2およびG-CSF産生の誘導、T細胞の増殖(マウス)、血液幹細胞の好中球への分化を誘導するなど。 |
IL-17は骨芽細胞のPGE2産生を促進し、PGE2の作用を介して破骨細胞形成を促進する。
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IL-18
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活性化マクロファージ、脾臓細胞、ケラチノサイト、腸管上皮細胞、副腎皮質細胞、骨芽細胞
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IL-18は、ヘルパーT1細胞、NK細胞でのIFN-γ産生誘導およびFasリガンドの発現と機能を促進する。またリンパ球のGM-CSF産生を促進する。これらの作用の一部は、IL-12との相乗効果が認められている。
|
IL-18は、骨芽細胞様ストローマ細胞から分泌される。IL-18は単球やリンパ球でのIFN-γおよびGM-CSF産生を促進する。このGM-CSFは破骨細胞前駆細胞のレセプターに結合して破骨細胞への分化を抑制する。IL-18の破骨細胞形成抑制作用はIFN-γではなくGM-CSFによってもたらされている。 |
インターフェロンα(IFN-α)およびβ(IFN-β)
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刺激されたB細胞、マクロファージ、繊維芽細胞、血管内皮細胞
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IFNαとIFN-βはT型IFNレセプターと結合する。T型IFNレセプターはAR1鎖(機能的レセプター)とAR2鎖(IFN-α/β結合鎖)とから構成されている。IFN-αおよびIFN-βの主な作用は、ウイルス複製阻止、細胞増殖抑制、腫瘍増殖の阻止、マクロファージ活性化、クラスI およびクラスII主要組織適合遺伝子複合体(MHC)発現の増加、NK細胞の活性化など。 |
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インターフェロン-γ(IFN-γ)
|
刺激されたT細胞およびNK細胞
|
IFN-γはU型IFNレセプターに結合する。U型IFNレセプターはGR1鎖(結合鎖)とGR2鎖(補助因子)とから構成されている。IFN-γはIFN-α/βと似た生物活性を示す。主な作用は、抗ウィルス性、クラスI およびII主要組織適合遺伝子複合体(MHC)増加、マクロファージ活性化、NK活性上昇、抗腫瘍効果など。 |
破骨細胞形成を抑制する。
|
インスリン様増殖因子-T
(IGF-T)
|
肝細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞
|
IGFレセプターには、IGF-TとIGF-Uに親和性の高いtype-T IGFレセプターと親和性の低いtype-U IGFレセプターがあり、骨芽細胞を含めた殆どの細胞に発現している。IGF-1はインスリンと構造、作用の似た増殖因子で、筋肉、骨など多くの組織で細胞の分化・増殖を促進する。インスリン様の代謝作用も示す。IGF-Tの合成はGHにより調節されているが、繊維芽細胞ではPDGFとFGFもIGF-1合成を促進する。 |
IGF-Tは骨芽細胞膜上のIGF-Tレセプターに結合し、骨芽細胞の増殖を促進する。IGF-Tはまた、破骨細胞の分化・活性化を促進する(51)。
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腫瘍壊死因子α
(TNF-α)
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単球、マクロファージ、リンパ球
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TNF-αレセプターは、TNF-α に親和性の低いTNFR1と親和性の高いTNFR2の2つがあり、殆ど全ての細胞に発現している。TNF-αレセプターは、細胞外領域の構造の違いによってTNFレセプターファミリーを形成する。TNF-αの主な作用は、腫瘍細胞の増殖抑制及び傷害。T細胞の増殖、IFN-γおよびCSF産生誘導、IL-2レセプター誘導。B細胞の抗体産生誘導。NK細胞の傷害活性増強。マクロファージのIL-1、IL-6、IL-8、CSF産生および遊走性誘導、好中球の遊走性および活性の促進。繊維芽細胞の増殖、PGE2およびコラゲナーゼ産生促進。滑膜細胞のプロスタグランディン産生およびコラゲナーゼ産生促進。破骨細胞による骨吸収促進。 |
TNF-αは破骨細胞形成促進および破骨細胞による骨吸収を促進する。
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顆粒球-マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)
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T細胞、マクロファージ、単球、内皮細胞
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GM-CSFレセプターは、GM-CSFに特異的なα鎖とIL-3、IL-5との共通レセプターであるβ鎖とから構成されている。主な作用は、顆粒球および単球前駆細胞の増殖誘導、マクロファージ活性化、血管内皮細胞の増殖・遊走性促進、好酸球、好中球、マクロファージなどからのIL-1、TNF-α産生を促進するなど。 |
リンパ球などから分泌されたGM-CSFは破骨細胞のレセプターに結合して、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制する。
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顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)
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単球マクロファージ、骨髄ストローマ細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞
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G-CSFレセプターは単一ドメインで構成されている。G-CSFは、好中球前駆細胞の増殖や分化、成熟好中球の活性化を促進する。 |
破骨細胞形成に影響しない。
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マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)
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単球、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨芽細胞
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M-CSFレセプターは単一ドメインで構成されている。主な作用は、マクロファージなど単球系細胞の増殖を誘導する。破骨細胞の分化・増殖を誘導する。 |
破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化誘導に必須。
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Transforming growth factor-α(TGF-α)
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腫瘍細胞、単球
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TGF-αは上皮増殖因子(epidermal growth factor; EGF)レセプターに結合し、生物活性を発現する。TGF-αの主な役割は、肝細胞、上皮細胞、ケラチノサイト、繊維芽細胞などの増殖促進、血管新生の促進、骨吸収の促進など。 |
TGF-αは破骨細胞の増殖および分化を促進する(52)。
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Transforming growth factor-β(TGF-β)
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血小板、胎盤、腎臓、骨、T細胞およびB細胞
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TGF-βレセプターにはT型レセプター(TβR-T)とU型(TβR-U)がある。TGF-βとTβR-Uが先ず結合して複合体を作り、さらにこの複合体にTβR-Tが結合して生物活性を発現する。主な作用は、線維芽細胞、平滑筋細胞のPDGF産生の促進、単球のTNF-αおよびIL-1産生誘導。上皮細胞、内皮細胞、血球系細胞などの増殖の抑制、小腸、ケラチノサイト、呼吸器系の上皮細胞や軟骨細胞の分化の誘導、骨芽細胞や筋芽細胞の分化の抑制。
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骨芽細胞からもTGF-βが分泌される。TGF-βは骨芽細胞の成熟を抑制して、骨芽細胞に十分な骨基質タンパク質(T型コラーゲン、オステオポンチン、オステオネクチン)を産生させる。一方骨芽細胞から分泌されるα2β1インテグリンはT型コラーゲンと共にTGF-βの作用を抑制して骨芽細胞の成熟を促し、骨芽細胞の石灰化を進める。破骨細胞形成に対して、低濃度のTGF-βは促進的に作用し、高濃度のTGF-βは抑制的に作用する。 |
骨形成タンパク質(Bone morphogenetic protein(BMP))
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骨芽細胞、その他の細胞
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BMPレセプターは、T型(BMP-RT)とU型(BMP-RU)の2つがあり、BMPが結合することによってBMP-RTとBMP-RUの複合体が形成され、生物活性を発現する。BMPは未分化間葉系細胞の分化誘導に必須の一連のサイトカインで骨芽細胞および軟骨細胞のみならず、筋細胞、繊維芽細胞、骨髄間質細胞、脂肪細胞の分化および組織形成を調節する。BMP-1〜BMP-15まで知られており、BMP-1以外はTGF-βスーパーファミリーに属する。 |
BMPは骨芽細胞から分泌され、未分化間葉系細胞から骨芽細胞あるいは軟骨細胞への分化を強力に誘導する。骨形成に必須の転写因子Core binding factor-1(CBFA-1)がBMPによって誘導されることが報告されている。
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破骨細胞分化因子(Osteoclast differentiation factor; ODF)
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骨芽細胞様ストローマ細胞
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ODFは骨芽細胞様ストローマ細胞の細胞膜上に発現している。ODFのレセプターであるReceptor activator of Nuclear factor kappa B(RANK)は破骨細胞あるいは前破骨細胞細胞膜上に発現している。破骨細胞と骨芽細胞が接触することによってODFとRANKが結合し、破骨細胞前駆細胞が破骨細胞に分化する。 |
IL-1、IL-6、IL-11、TNF、PTH、活性型ビタミンDなどにより骨芽細胞様ストローマ細胞のODF産生は刺激される。破骨細胞に分化するための必須因子としてODFの他にM-CSFが知られている。
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破骨細胞形成阻害因子(Osteoclastogenesis
-inhibotory factor(OCIF))
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末梢血リンパ球および甲状腺、副甲状腺、腎臓、心臓、肝臓などの各臓器
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TNFスーパーファミリーに属する分泌型の破骨細胞形成阻害因子である。ODFのdecoyレセプターである。骨芽細胞に特異的に作用して破骨細胞形成を抑制する。 |
ODFによる破骨細胞の分化、成熟を阻害し、破骨細胞形成を抑制する。その結果、骨吸収は抑制される。
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ケモカイン |
レセプター |
レセプターの主な発現細胞(53) |
骨の細胞との関係 |
CXC
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CXCR1
CXCR2
CVCR3
CXCR4
CXCR5 |
好中球、NK細胞、CD8+T細胞.
好中球、NK細胞、CD8+T細胞.
活性化Th1、単球.
ナイーブT細胞、Th2細胞、preB細胞、単球、造血幹細胞、血管内皮細胞.
B細胞. |
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CC
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CCR1
CCR2
CCR3
CCR4
CCR5
CCR6
CCR7
CCR8 |
単球、Th1細胞.
単球、好塩基球、T細胞.
好酸球、好塩基球.
好酸球、Th2細胞.
単球、Th1細胞.
未熟樹状細胞、T細胞、B細胞.
メモリーT細胞、B細胞.
T細胞、B細胞. |
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C |
XCR1 |
T細胞、NK細胞. |
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CX3C
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CX3CR1
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NK細胞、ニューロン、単球、CD8+T細胞. |
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51.Hill PA., Reynolds JJ., Meikle MC.: Osteoblasts mediate insulin-like growth factor-I and -II stimulation of osteoclast
formation and function. Endocrinology, 136(1): 124-131, 1995.
52.Takahashi N., MacDonald BR., Hon J. et al.: Recombinant human transforming growth factor-alpha stimulates the
formation of osteoclast-like cells in long-term human marrow cultures. J.Clin.Invest., 78(4): 894-898, 1986.
53.河崎伸, 松島綱治: ケモカインとケモカインレセプター. 日本臨しょう, 57(2): 278-282, 1999.
54.宮園浩平, 菅村和夫編: サイトカイン・増殖因子. 羊土社, 東京, 1998.
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